2015年12月23日水曜日

『余命の告知Ver.3.1』

来年6月頃に、緩和ケアに関する私の単著が出版の見込みですが、そこで取り上げた「余命の告知」について、校了後にもう少し考えたことがあって、この部分だけを深く掘り下げてもう一冊書籍にできないかと考えています。

(項目案)
・余命の告知Ver1.0とは
・「全く告知しない」派と乱暴に告知する派:今の告知の現状
・がん告知と余命告知の違い
・知る権利と知らされない権利
・告知をする医師の不安と恐怖
・欧米と日本の考え方の違い:Good Death研究
・余命の告知Ver2.0とは
・1段階進んだ「余命の告知Ver.3.0」
・「月単位」という言い方の落とし穴
・患者さんを傷つけない余命の告知は可能なのか?
・私の考える「余命の告知Ver3.1」

がん診療の現場では、様々な余命の告知の方法が行われていますが、それらをVer1.0~Ver23.1まで分類し、私が実践してきたVer2.0~3.1までの変遷とそこに至るまでのプロセスを解き明かしたいと考えています。
もし、出版にご協力頂ける出版社さんがいらっしゃいましたら、ご連絡をお待ちしております。

2015年7月23日木曜日

「早期からの緩和ケア外来」(腫瘍内科緩和ケア初診)新設について 

 世界的に「早期からの緩和ケア」が進められる中で、現在の日本においては、外来における緩和ケアの提供体制に様々な障害があることが指摘されてきました。
 当院においても、緩和ケア外来に通院したいというご相談があった場合に、他院における抗がん剤治療中の患者については、現在治療中の各々の病院による対応をお願いしてきました。しかし、都内などの他施設で抗がん剤治療を受けつつも、緩和ケアについては地元で受けたいというニーズや、他院で抗がん剤治療中だが月単位では緩和ケアへの移行が必要になる例で、早めに関係性を作っておきたい、といったニーズが少なからずあることから、「早期からの緩和ケア」を外来で対応する必要性を感じておりました。
 また、当院においては、今後も地域がん拠点病院としての役割を果たしていくべく、地域における緩和ケアの充実のみならず、治療に対する支持療法や意思決定支援、また通院の負担が大きい場合などの抗がん剤治療継続まで幅広く対応するために、腫瘍内科(緩和ケア初診)の枠を新設することとしました。

●病院名称:川崎市立井田病院(〒211‐0035川崎市中原区井田2-27-1)
●正式名称:腫瘍内科緩和ケア初診
●通称:早期からの緩和ケア外来
●概要:毎週金曜日 9時~12時 30分1枠(6名/日)
●対象:川崎市内在住のStageⅣ(再発や転移がある)がんの患者様で、他院において抗がん剤治療継続中に、当院に緩和ケアでの通院もご希望される方
●開始日:2015年8月7日(金)
●初診時対応医師:西智弘(腫瘍内科/緩和ケア)
●チーム連携:がん看護専門看護師をはじめ、ケースワーカーや薬剤師、栄養士などと連携して支援を行います。
●フォローアップおよび緊急時対応:腫瘍内科再診外来または緩和ケア再診外来で継続フォロー致します(再診時担当医は曜日によって異なります)。平日または夜間休日の緊急時対応や入院については当院でも対応可ですが、その場合は当院から情報提供を求める連絡をさせて頂きますので各病院での対応をお願いします。また、この外来は将来の緩和ケア病棟入院を確約するものではなく、緊急入院時はAPCU(Acute Palliative Care Unit:一般床扱い)での対応となります。
●提供される医療/ケア:支持療法、症状緩和、意思決定支援、病状理解支援、精神的ケア(必要に応じて精神科ご紹介)、家族ケア、哲学・倫理的問題への対処、抗がん剤の継続診療(元の通院先への通院負担が大きい場合)など
●対象として除外される場合
・Stage I~Ⅲまでの、進行再発がん以外の方(術後補助化学療法中など)
・非がん疾患の方
・他の緩和ケア外来に通院中の方

「早期からの緩和ケア」の提供体制については、まだどのような形態が優れているのかといった部分において、エビデンスが不十分ではあります。また、上記の体勢において、現在得られているエビデンスの範囲でも「早期からの緩和ケア」の提供としては不十分な部分もあります。その点においては今後、国内外の新規知見を参考にしつつ、また近隣の医療施設との連携を深めていくことで、より充実した「早期からの緩和ケア」の提供体制を作っていけるよう鋭意努力していく所存です。
もし、先生方のご診察されている患者様で、上記対象に当てはまる方、ご希望のある方がいらっしゃいましたら、当院緩和ケア担当 森/目時/川野(代表:044-766-2188)までご連絡いただければ幸いに存じます。
なにとぞよろしくお願い申し上げます。

2015年7月6日月曜日

FOLFIRINOXとGEM+nabPTXの効果は?

先日の「かながわオンコロジー道場」で、興味深いやりとりがあったので書き残しておこうと思います。

「かながわオンコロジー道場」とは、神奈川県内の腫瘍内科医やメディカルスタッフ、医学生さんなどが参加して、症例ベースにディスカッション(他流試合)をするという勉強会です。
ご高名な先生の御高説を拝聴する、という会ではなく、ディスカッションメインなので、全員でカンファレンスをしているような雰囲気で勉強になります。

この日は、膵癌の症例でした。
若い、転移性膵癌の患者さんでPSはよく、現在の標準治療であればFOLFIRINOXを選ばせたくなるような症例です。

そこで、プレゼンターの先生が、「ではみなさん、この症例にどの治療を選びますか?」というので、画面にはFOLFIRINOX、GEM+nabPTX、GEM、GEM+Erlotinib、S1などの選択肢が並ぶ。
そこでディスカッションであるが、大勢の医師が
「FOLFIRINOXが最強の治療法だから…」
という論調で話をしていくなかで、ある医師が
「FOLFIRINOXがGEM+nabPTXより上だという証拠はないのでは?」
という発言をされました。

ここで簡単に復習をしておきましょう。
FOLFIRINOXは、GEM単剤に対してOSで11.1か月対6.8か月と延長、ハザードは0.57(95%CI:0.45-0.73)を証明した治療法です(Conroy T, et al. FOLFIRINOX versus gemcitabine for metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med 364(19):1817-25, 2011. )。




それに対してGEM+nabPTXは同じくGEM単剤に対してOSで8.5か月対6.7か月と延長、ハザードは0.72(95%CI:0.62-0.83)を証明した治療法です(Von Hoff DD, et al. Increased survival in pancreatic cancer with nab-paclitaxel plus gemcitabine. N Engl J Med.369(18):1691-703, 2013.)。




GEM単剤については、どちらの比較試験でも6.7~6.8か月と同じ程度なので、多くの医師は、この2つの試験を比べたときに、11.1か月と8.5か月という数字をみて「FOLFIRINOXのほうが効果が高い治療」と言っているわけです。

しかし、確かにそれらしく見えるのですが、本当はセッティングの異なる2つの試験を比べて、「こっちの治療法のほうが強い」と言い切るのは、行儀がよくないことであるのは確かです。実際に、絶対こっちのほうが上だろう、と思って比較試験をしてみて、思いもよらない結果が出たことも、過去の歴史の中では数多くあるからです。head to headでの比較試験をしていない2つの治療法は厳密に比べることはできません。

また、ここで統計の先生からも
「ハザード比がきれいに分かれているわけではなく重なっているので、FOLFIRINOXのほうが勝っているように見えるのは偶然の可能性がゼロとは言えない」
とコメントがありました。つまり、FOLFIRINOXとGEM+nabPTXのハザード比を並べてみると
・0.57(95%CI:0.45-0.73)
・0.72(95%CI:0.62-0.83)
であり、FOLFIRINOXの95%CI上限の「0.73」は、GEM+nabPTXの95%CI下限「0.62」を上回っているので、確率的には、GEM+nabPTXがFOLFIRINOXと同等であるという可能性もゼロではない、ということです。
また、症例数もFOLFIRINOXは342名の試験で、GEM+nabPTXは861名と倍以上であり(それはサンプルサイズの設定の問題もあるのでしょうけれども)、後者のほうがより再現性が高い可能性を指摘していました(95%CIの幅をみてもバラつきが少ない)。

そしてもう1点は、FOLFIRINOXを行う時に、2コース目で好中球減少のため延期や減量せざるを得ないケースが多発するため、最初から減量して行うやり方(modified FOLFIRINOX)が検討されているという話が出たときに、また別の医師から
「full doseでFOLFIRINOXの効果の話をしているときに、最初から減量する、というのであれば元も子もないのでは」
といった指摘が出ました。最初から減量してしまうのであればエビデンスから外れ、full doseのGEM+nabPTXとどちらが効果が高いかなんてことはますます不明になります。

・・・ということで、結局FOLFIRINOXとGEM+nabPTX、どちらがよいレジメンなの?という点ではよくわからなくなってしまいましたが、まあそうは言っても一般的にはFOLFIRINOXのほうが、腫瘍縮小効果を狙いたいとき(奏効率は32%対22%)や、若くて少しでもOS延長効果を狙いたい、というときには選択肢としての重みは強くなる、ということで良いのだと思います。
ただ、無条件にFOLFIRINOXのほうが上だ!と考えるのは、上記のような理由からちょっと考えたほうがよいなと思いました。特に今後、modified FOLFIRINOXがcommunity standardとなっていくのであれば、それとGEM+nabPTXの比較試験をやってもよいのではないかとも思いました(症例集積悪そうですが・・・)

2015年7月3日金曜日

あなたにとって「マギーズセンター」とは何ですか?

 最近、メディアやSNSなどで「マギーズセンター」を目にする機会が増えてきました。
先日の緩和医療学会学術集会でも、招待講演およびシンポジウムにて、マギーズセンターが取り上げられていました。

 さて、そのマギーズセンターですが、よく知らない方のために、マギーズトーキョープロジェクトのWebサイト(http://maggiestokyo.org/)から、その説明をした部分を抜粋しておきます。

造園家で造園史家でもあったマギー・K・ジェンクス氏は、乳がんが再発し「余命数ヶ月」と医師に告げられた時、強烈な衝撃を受けたといいます。にもかかわらず、次の患者がいるのでその場に座り続けることが許されませんでした。(中略)
「自分を取り戻せるための空間やサポートを」
マギーは、がんに直面し悩む本人、家族、友人らのための空間と専門家のいる場所を造ろうと、入院していたエジンバラの病院の敷地内にあった小屋を借りて、誰でも気軽に立ち寄れる空間をつくりました。(中略)がん患者や家族、医療者などがんに関わる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも利用することができます。マギーズセンターに訪れるだけで人は癒され、さまざまな専門的な支援が無料で受けられます。がんに悩む人は、そこで不安をやわらげるカウンセリングや栄養、運動の指導が受けられ、仕事や子育て、助成金や医療制度の活用についてなど生活についても相談することができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていてもいいのです。マギーは、そこを第二の我が家と考えました。(中略)マギーズセンターのように、がんと向き合い、対話できる場所が、病院の中ではない街の中にあること。それは本当に画期的なことです。「場」の持つ力は、医療分野のみならず建築分野の専門家の共感も得てきました。

 そして2014年、日本でもマギーズセンターを作ろうという動きが本格化し、2014年11月に行われたクラウドファンディング(ready for!)で、建設のための目標額700万円に対して大きく上回る2200万円以上もの寄付金を集め、当時のready for!での寄付金総額1位となりました。建築のための土地も確保され、現在着々と計画が進められています。

 私が、このマギーズトーキョープロジェクトが素晴らしいと思うことのひとつは、寄付文化の乏しい日本において、チャリティーを中心に建設や運営資金確保を考えているというところです。普通なら、国や自治体に働きかけて、補助金を得よう、と考えそうなところを、運営のおひとりが「日本に寄付の文化を」と言い切ったところに感銘を受けました。その社会的な意義と、ビジョンに対する共感から、私も少額ではありますが寄付をさせていただき、活動を応援しています。

 しかし、この事業において、私が懸念するところがひとつだけあります。
 それは、この事業をみている方々が、何を考えているのか、そして「マギーズセンター」をどう思っているのか、ということです。
 マギーズセンターの取り組みは素晴らしい、そしてそれが東京にできることは喜ばしいことではあります。しかし、その恩恵を直接に受けられる患者さん・家族は、東京都内が主、せいぜい神奈川・埼玉・千葉の東京寄りの地域の方くらいでしょうか。少なくとも九州や北海道の患者さんにとって得られるものはありません。そのような状況で、その患者さんたちを支える医療者に、いくらマギーズの素晴らしさを伝えても「自分たちには関係ない」と冷ややかな目を向けられても仕方がないのかなとも思うのです。
 では、全国各地にマギーズセンターの名を冠したセンターを作っていけばよいのでしょうか。私はそれにも反対です。現在の日本の寄付力(と表現したらいいでしょうか)を結集しても、東京1施設の運営が安定して可能かどうかもわかっていません。そのような状況で、全国各地にマギーズができることは、その力を分散させることになります。そうなれば結局、公的資金を使えばよい、という方向にいきかねません。「公立マギーズ」が必ずしも悪いものかどうかはわかりませんが、当初の理念からは離れてしまう可能性を感じます。また、資金だけではなく、人材の分散も懸念されます。

 私は、基本的にはオールジャパンで、かつ東京一極集中でマギーズを運営していくべきだと考えています。それは「東京の運営が安定するまでのしばらくの間」という意味ではなく、かなり長い期間、半永久的にそれがよいと考えています。集められる限り全ての資源を集めて、質の向上につとめるべきです。
 でも、それは前述したように、「なぜオールジャパンなのか」を説明する必要がありますし、支援をしている方々も、ひとりひとりが考えたほうが良いことだと思っています。
「あなたにとって、マギーズトーキョーができることはどんな意味をもっているのか?そして今後あなたは何をしていくのか?」

 私の中では、マギーズトーキョーは、これまで全国各地で活動してきた、様々な相談支援事業にとっての規範・リーダーとなることを期待して支援しています。がん治療の領域における国立がん研究センターのようなものです。
 これまでは、相談支援事業を各地域で独自に立ち上げていても、多くが試行錯誤を繰り返しながら運営してきたと思います。しかし、マギーズトーキョーができれば、それは世界基準での施設・活動であり、それを日本語で見たり聞いたりできることには大きな意義があります。その意味で、北海道や九州の方々には直接的な意義は乏しくても、間接的に影響を与えることはできますし、していくべきだと思います。
 だからこそ、その中央であるマギーズトーキョーには、高い質の維持と発信の義務、リーダーシップが求められると考え、期待しています。
 そして私は、自分の地域で、マギーズトーキョーには及ばないまでも、その活動を大いに参考にして、この地域の実情に合った患者さんや家族の支援をしていきたいと考えています。それは自分の地域にマギーズを作るという意味ではなく、もっとその理念を地域に溶け込ませるといった、質の異なる活動です。これまで行ってきた「ほっとサロンいだ」や「モトスミがん哲学カフェ」もそうですし、+Care Projectもその発展形になるでしょう。何より、全国的にマギーズ運動が盛んになっていくことは、自分の地域にもそういった活動の芽が増えていく可能性も期待できます。仲間が増えることでできることも増える可能性があることも大きな期待です。

 マギーズトーキョーが東京にできるだけでは何も変わりません。
 そのことに対し、あなたがたが各地域で何ができるか、ということをひとりひとり考え行動することが日本を変えていくのだと思っています。


2015年6月15日月曜日

モトスミがん哲学カフェ7月・9月予定

「がん」の悩みを


私たちと語りませんか?



「がん哲学カフェ」とは、がん患者さんとそのご家族と医療者とが、カフェのリラックスした空間で、対話するための場所。「がんであっても笑顔を取り戻し、人生を生きることが出来るように支援したい」と願う、順天堂大の樋野興夫先生によって発足されました。

「病気を抱えて、どうやって生きていったらいいのか」「これから、どんな治療を受けていったらいいのか」とお悩みの方へ。私たちとの対話を通じて少しでもお気持ちが整理されるよう、お手伝いをさせて頂きたいと思っています。お気軽にご利用下さい。

【開催内容】

・7/18(土)14時~17時

・9/5(土) 14時~17



123組、各組1時間程度、がんの専門医師とがん看護専門看護師が、がんに関するどんな相談でも受け付けます(診療行為は行いません)。対象は「がん患者さん」「がん患者さんを支えるご家族」です。申込制ですので、お早めにご連絡下さい。



・開催場所:ida cafe


(川崎市中原区井田中ノ町33-9 http://ida-cafe.com/


東急東横線元住吉駅西口から、ブレーメン通りを抜けて徒歩10分(850m)。井田小学校えんじゅ門の近隣です。



料金:無料 (飲み物は、各自ご注文下さい)



予約がない場合は開催されないことがあります。
【申し込み、お問い合わせは下記まで、メール、FAX、または電話でお願いします】

川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター   西 智弘
TEL: 044-766-2188   FAX: 044-788-0231
e-mail: tonishi0610@hotmail.co.jp

西 智弘(にし ともひろ):川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科 医師

2005年北海道大学卒。室蘭、川崎で家庭医療、内科、緩和ケアを研修後、2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科。2012年から現職。緩和ケア、抗がん剤治療や在宅医療に携わる。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。

2015年2月16日月曜日

『がんが自然に治る生き方』について

近藤誠をはじめとした、いわゆる「医療否定本」の類は、ここ数年で書店に急速に増えている。

これは、日本だけの現象なのかと思っていたら、海外でこの『がんが自然に治る生き方』が飛ぶように売れ、日本でも翻訳本がアマゾンでベストセラー1位になった、ということを聞き、「これも医療否定本の類かなあ~」と思いつつ購入してみた。

読んだ感想として、一言で言えば「危険」
ただ、いろいろと思うところもあったので、まず何が「危険」と思ったかから書いていこうと思う。



●「抗がん剤や放射線を否定しない」と書きながら結局否定的な印象を抱かせること

この本の大まかな要点だが、
世界には「がん」と診断され医師から厳しい余命を告げられながらも、そこから劇的な回復をみせ、がんが消えたり、長期生存した方達がいる。その方達は、これまでほとんど注目されていなかったのを、この著者が世界中を回ってインタビューや調査を行い、共通する行動パターンを明らかにした
というもの。
結果的に、9つの共通点と実践を明らかにし、それを患者さんのエピソードを交えながら書き連ねているのが本書である。

著者は、冒頭で「この本は手術、抗がん剤や放射線治療(いわゆる3大療法)を否定しない」と書かれているのだが、結果的に書かれている内容は「3大療法をしたけどダメだった。この9つの実践を行ったら治った」というもので、(意図はしていないにせよ)結果的に読者が3大療法について否定的な印象を抱くようなつくりになっている。
これまでの「医療否定本」は、過激な論調で医療を否定するものだから、「ちょっと極端だなあ」という印象を抱いて、結果的に(ちょっと慎重になりつつも)適当な医療を受ける、というパターンは多かった。

しかし、本書はそういった過激さが一見少ないところで(オカルトな部分はあるが)、結果的に西洋医学を否定するような流れを本の中で生み出しているところが「危険である」と私が考えた第一の理由である。
また、他の医療否定本やがんビジネスの方々と一緒で、3大療法を受けて治った事例なのにそうは書かず、併用した他の方法が効いて治ったのだ、と書いている事例も散見される。


●「これは仮説である」と言いながらも「明日から実践しましょう」の論調

もうひとつの「危険」は、これまた冒頭に示された「これは仮説である」の一文。
実際、この著者が行った研究は、がんになって治った人達の事例を集めて「共通点をまとめた」だけであり、確かに「仮説」の息を出ない。

しかし、これもまた本書を読むとそんなことは頭から抜けてしまうようなつくりだ。
仮説、という一文があるからといって、この本を読んで医療を受けることをやめ、この本の通りに実践してもし生きる時間を短くした例があったとしたら、それは免責されるものではない。


●「それってどうなの」な代替療法を多数紹介している点

本書では、3大療法ではなく他の代替療法で治った、とうたっている事例がいくつか出てくるが、その全てが科学的には検証されていない、もしくは否定されたような内容である。中には宗教がかった、ちょっと背筋が寒くなる部分もある(瞑想などそのものを否定はしないが)。

代替療法を受けながら健康的に過ごしている例がある、ということを私は否定しない。
しかし、その影でそれら治療法を受けながらも亡くなっていく方々が本当にたくさんいるのだという事実は厳然としてある。そのことに触れず、一部の「まれな事例」ばかりを取り上げ、それが万人にとって効果がありそうな書き方をするのは、やはり「危険」と見なさざるを得ない(先ほども述べたように「仮説」と思えないような書き方だから)。

数々の医療否定・代替療法礼賛系の本を読んでいて思うことだが、テーマは全て「治るか、治らないか」で、治れば勝ち・幸せ、治らなければ負け・不幸、という価値観があるように思える。それは本書においても見受けられる価値観である。
人はみな、すべからく死に向かっているというのに?だとしたら、人間はどうやっても幸せにはなれないということではないか。

3大療法では幸せになれない、ということをこういった本などでは繰り返し主張されることだし、巷ではそれが真実だと思わされている面もあるかもしれない。
しかし実際には、3大療法を受けて治った方々は、少なくともこういった代替療法などで治った方々よりも間違いなく大勢いるし、何かと悪者にされがちな抗がん剤ではあるが、かなり厳しい余命と言わざるを得ない全身にがんが転移した患者さんでも、これで治るという方も決してゼロではないのである。
そして、これら3大療法+緩和ケアで、治らないまでも、生きている時間を延ばしたり質の高い生活を追求することで、結果的に幸せと思われる人生を全うする方々もいる。

本書は、海外の誠実そうな心理士の方が書いていて信頼できそうという印象を抱かせる点、これまでの医療否定本と異なる優しげな装丁、そして先に述べた「3大療法否定しない」「仮説」と言いながらも読後にはそれを忘れさせるような構成、といった点から、個人的にはより注意を払って読むべき本であると考える。

●幸せとは何か、という命題

ここまで、本書に否定的な意見を書き連ねてきたが、じゃあこの本は読むべきではないか、というと、読んでおいて悪くない本ではあると思う。

私たち医療者は、毎日のように患者さんやご家族に厳しい言葉を伝えている。病名の告知、短い予後、予想される治療の副作用、だんだんと体力が落ちていく経過など・・・。
ある医師はそれらの言葉をもって「呪い」と表現していた。我々医療者は日々、患者さんに「呪い」の言葉を吐いているのだと。確かに、呪いのようなものかもしれない。これらの言葉をもってして、患者さんの気持ちを下げこそすれ、前向きにする要素はひとつとしてないのだから。
患者さんが代替療法などを受けたい、という希望を出したときもそれを頭ごなしに否定していないか。それもある意味「呪い」で、患者さんがその治療法と前向きに生きていこうという気持ちまで萎えさせていやしないか。
「もう先は長くないので、あとは自分の時間を大切に過ごして下さい」という類の言葉をかけられて、いったいどれほどの人が「自分の時間を大切に」過ごせるのだろうか。死に向かって、前向きに生きる、というのは並大抵のことではない。我々医療者は、この無配慮を反省すべきである。

がんサロンなどで出会う患者さんは、前向きな方も本当に多いが、死に向かって前向きというよりあくまでも生に向かって前向き、自分の人生を生き抜く、という決意を感じる。こういう方々と接していると、緩和ケアで教えられる「死を見つめ、受け入れることが大切」といった表現が本当に嘘くさく思える。
ただ、その方々も何もせずに突然そういった心境になるわけではない。皆さん、多くの葛藤や苦しみを乗り越えた上で、そういった生き方を選んだ、というところである。誰しもが簡単に乗り越えられるような道程ではない。その歩みの手助けとして、本書は助けになる部分もあるのではないかと思えるのである。
特に「治療法は自分で決める」「より前向きに生きる」「『どうしても生きたい理由』を持つ」といった部分は、私も同意できる部分も多々ある。

医療の目的は命を延ばすことか。
答えは「No」である、と私は考える。医療の本当の目的は「人生を幸せに生き抜いてもらう手助けをすること」である。
実際、「幸せ」はそれぞれの人によって違うものであるし、量的に(厳密には)計測できるない。一方で、命の長さは明確に計測ができる。なので、長く生きることは「幸せ」を測る代替指標のひとつに過ぎないのだと思う。

本書では、がんが治って長く生きる、ということを絶対的な価値としている。しかし、この9つの実践で万人が治るわけではない「仮説」である以上、この本をそういった「治療の手引き」としてとらえるならそれはやはり危険である。ただし、その点に注意して、前向きに生きるためのヒント、がんを持ちながら生ききるためのヒントを得るための本としては、読む価値がある。

我々医療者は、科学者として伝えるべきことはきちんと伝えるべきだし、危険な治療法や詐欺に患者さんが向かおうとしているのなら、それは止めるべきである。しかし一方で、患者さん達がいかに前向きに人生を生ききることができるかを常に考え続けないとならない。それは「自分らしく生きて下さい」と通り一遍の言葉をかけることでは決してない。私自身にもまだ答えはないが、科学者である人間として、患者さんと向き合う覚悟がまずは大切であると思う。

モトスミがん哲学カフェ3月・4月予定

「がん」の悩みを

私たちと語りませんか?



「がん哲学カフェ」とは、がん患者さんとそのご家族と医療者とが、カフェのリラックスした空間で、対話するための場所。「がんであっても笑顔を取り戻し、人生を生きることが出来るように支援したい」と願う、順天堂大の樋野興夫先生によって発足されました。


「病気を抱えて、どうやって生きていったらいいのか」「これから、どんな治療を受けていったらいいのか」とお悩みの方へ。私たちとの対話を通じて少しでもお気持ちが整理されるよう、お手伝いをさせて頂きたいと思っています。お気軽にご利用下さい。



【開催内容】

・3/7(土)14時~17時

・4/18(土) 14時~17



123組、各組1時間程度、がんの専門医師とがん看護専門看護師が、がんに関するどんな相談でも受け付けます(診療行為は行いません)。対象は「がん患者さん」「がん患者さんを支えるご家族」です。申込制ですので、お早めにご連絡下さい。



・開催場所:ida cafe


(川崎市中原区井田中ノ町33-9 http://ida-cafe.com/


東急東横線元住吉駅西口から、ブレーメン通りを抜けて徒歩10分(850m)。井田小学校えんじゅ門の近隣です。



料金:無料 (飲み物は、各自ご注文下さい)



予約がない場合は開催されないことがあります。
【申し込み、お問い合わせは下記まで、メール、FAX、または電話でお願いします】

川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター   西 智弘
TEL: 044-766-2188   FAX: 044-788-0231
e-mail: tonishi0610@hotmail.co.jp

西 智弘(にし ともひろ):川崎市立井田病院 かわさき総合ケアセンター 腫瘍内科/緩和ケア内科 医師

2005年北海道大学卒。室蘭、川崎で家庭医療、内科、緩和ケアを研修後、2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科。2012年から現職。緩和ケア、抗がん剤治療や在宅医療に携わる。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。