2013年2月11日月曜日

病院と共に地域に住むということ

 私は、医師になってからこの方、勤務先と離れた場所に住んだことはない。
 今は、井田病院のある井田地域。
 地方在住の場合は当然かもしれないが、東京近郊では住んでいる地域と勤めている病院が異なる方は大勢いる。地方でも、単身赴任、という場合もあるだろう。
 特に、東京近郊は、駅を2つも離れれば生活圏がかなりことなってくる場合があり、とても同じ地域に住んでいるとは言えない。

 今年からコミュニティに出て行くことをテーマに活動しているが、その過程で、「病院と共に地域に住むこと」のメリットを実感しているので記しておくこととする。
 ただし、以下の記載はコミュニティでの活動を行いたいと考えていない方や勤務先を数年単位で変わっていこうと思っている先生には意味のないエントリーと思われることをお断りしておく。

 自分の病院を背景にして、その地域に市民として住むということは、実際に多くのメリットがある。

 まず、コミュニティの問題を、生活面でも仕事面でも実感できる。平日は、患者さんや家族の状況から地域の実情を量ることができるし、休日に街を散歩すれば、どのような家や店がどの辺りにあるのか、それらがどれくらいのスピードで変化しているのか実感としてわかる。
 家族がコミュニティに出ていけば、そこからの子育て事情や地域経済などの情報も得られ、重要である。それらの背景を元に、では病院では何をすれば良いか、自分が医師としてできる仕事は何か、ということを、自分が市民としてできることは何か、というテーマと同時に考えることができる。
 これが、別の地域に住んでいれば、仕事から得た情報は居住地の情報とは当然リンクしないので、いくら余暇に住まい周囲でフィールドワークをしても(直接は)仕事にはつながらない。
 全ての活動が、仕事に生かすための資料となり、ほとんど無駄がないという魅力は、捨てがたい。
 

 それと関連して、仕事で得た人脈を地域のコミュニティに生かすことができる(またその逆)のも魅力である。医師は他の地域から来ている場合が多い病院でも、スタッフの多くは近隣に居住している場合がとても多いからだ。そうすると、それらスタッフからも地域の情報を得ることが可能になるし、スタッフと地域の人脈をつないでいく作業も容易である。また逆に、コミュニティに出れば、その中の活動でも人脈は広がっていく。例えば、地域の居酒屋で隣のカウンターに座った方と話しをしていたら、地域のコミュニティのキーパーソンだった、ということもあるかもしれない。また、自分の家族や隣近所の人付き合いを通じてだって、つながりは広がっていける。仕事面でも地域面でも、日常生活でも多様に、何重にも地域の人脈が広がっていくことは、将来の大きな財産になりえる。

 コミュニティに入って行く時も「井田病院の・・・」と言えば「ああ、あの山の上の・・・」と、話が通りやすい。行政に近い、大きな組織に属していることの信頼性の高さを実感できる機会が多いが、これが、そのコミュニティに関係ない地域の病院であれば、やはり色々な面で、効果は薄いような気がする。

 また、自分の住んでいる地域を自分の仕事で良くしていくことは、未来の自分や家族を守ることでもある。自分だって、いずれは年老いる。その時に、自分や家族をゆだねられる信頼できる地域の病院とコミュニティを、自分の手で作っておくことほど安心なことはないではないか。

 これからの医療・福祉の問題は、「日本全体の」という枕詞で議論を始めてはいけないと思う。都心部と地方はその抱える事情が異なるし、都心部だって高齢化が進行している地域とそうでもない地域が隣接していたりと、ひとくくりに論じることなどできない。そもそも「日本が」なんてことを、日本中から医師が集まって論じていても、全体に共通する解なんて出せっこないと思う。問題を取り扱う範囲が大きすぎ、問題意識も薄まるからだ。それを「自分の住んでいる地域では」というところに細分化していけば、密度の濃い議論も可能だし、何より議論の内容が自分たち自身に降りかかることだから問題意識も高まる。「日本全国を動かす」よりは「武蔵小杉のごくごく一部を動かす」ほうが扱う対象も小さくなるから、これならできるんじゃないか、という気持ちをコミュニティの中に起こしやすい。とはいえ、コミュニティを本気で作ってそれを動かそうと考えるのであれば、やはりその中にどっぷり入って、地域を知り、地域を愛し、命をかけてやらないと、何もできないのではないかと思う。

 自分にとっては、栄誉や報酬を求めて、病院を転々としていくという生き方は全く魅力的に映らない。
 例えば、極端な話、どこか他の地域で「教授や院長として来てくれないか」とか「年棒3000万用意する」とかいう依頼があったとしても、その申し出を受けることはないと思う。まあ、あり得ない話だが。
 それよりも、地域でコミュニティを育て、それと共に病院を育て、誰しもが住みたいと思う町、住んでて良かったと思える町、人生を全うできる町を、一生かけて作ることに少しでも貢献できたら至上の喜びである。そして、自分が年老いて死んだあとも、それがずっと続いていったなら、それが自分の生きた証と思える。名前は残らなくても。

2013年2月5日火曜日

緩和若手ネットワーク「PCREG」に参加しませんか!

 将来緩和専門医を目指したい、もしくは将来専門としないまでも緩和ケア領域に携わりたい、興味があるという医師・医学生は増えてきていると思います。

 しかし一方で、緩和ケアを専門にしている大学医局は全国でもまだ少なく、学生時代や初期研修時代に学ぶ機会には乏しいのが現状です。
 教育は各施設で独自に行われているが、どのような研修をすれば緩和ケア医になれるのか、緩和医に必要なスキルは何か、緩和医のアイデンティティとは何か、といった議論が行われる機会にも乏しく、若手にとってイメージを形成しにくい点がありました。

結果、若手は自ら考えながらキャリアを重ねているものの、特に小規模施設で研修を受けている医師にとっては、他施設の若手がどのような研修を受けているのか知る機会にも乏しく、迷いを抱えながら研修を続けている場合もあったと思います

また、本邦でも緩和ケアに対するEBM形成が急務とされている中、研究を企画し多施設共同で実施できる施設は数えるほどしかなく、「緩和ケアの研究とはどういうものかわからない」という若手は多数います。
国内の多施設共同試験やグローバル試験が行われる気運が高まってきている中、研究の素養を身につけた医師やコメディカルの養成も重要であり、研究のノウハウを相互学習する機会が必要です

これらの問題を解決するため、まずはネットワークを作ることが大切と考え、20116月、若手医師・コメディカルを中心とした、情報交換および相互教育を目的とした「P-CREG(ぴー・くれっぐ):Palliative Care Research & Education Group」が結成されました。

当初は医師、看護師12名で結成され、メーリングリストでのネットワーキングと、「顔の見える関係」のための夏季セミナーの実現、を柱として活動し、途中からは緩和医療学会の協力も得ながら活動してきました。昨年6月には緩和学会総会にて「若手医師フォーラム」を開催し、その成果を論文として投稿中です。そういった活動の中で、徐々に数を増やし、現在50名弱の医師、看護師の方にご参加頂いています。
そして今年度、ついに悲願であった「夏季セミナー」が、8/24・25に1泊2日形式で開催されることが決定されたことを機に、今後、より広くネットワークを広げていきたいと思っています。若手医師、コメディカルの皆様、これを機に、是非ご登録下さい!

【本グループの役割/使命】

・若手医師、医学生を対象とした「夏季セミナー」を、緩和医療学会と協力して実施し、自分たちのキャリアパスを後輩に示すと共に、相互教育とネットワーキングを行う。

・メーリングリスト(ML)を中心に、緩和ケアに興味を持つ医師・医学生、および看護師・薬剤師などが相互に情報交換および教育を行い、それぞれのスキルアップおよびキャリアパス形成を行うことができるよう支持する(緩和ケアは医師のみでできる仕事ではなく、看護師・薬剤師など多職種の連携が必要となる。また看護研究の手法などから学ぶ部分も多いため、本グループには多職種の参加を促す)。

・多施設横断的なネットワークを維持強化し、施設間で切磋琢磨することによる全体のレベルアップを図ると同時に、将来の多施設共同試験につながる関係作りを維持する。

・未来の緩和医療を担う人材を育成するため、若手の自立を支持する。

・今後の多施設共同試験・グローバル試験の実施に備え、研究手法についての相互教育を行い、緩和ケアの研究を実施できる土壌を整える。

【参加要件】
 
・緩和ケアに興味のある医学生および医師(専門は問わない)
・緩和ケアを専門とする看護師、薬剤師
※卒後20年目までが参加要件
 
※現在の参加者は医師(緩和医、腫瘍内科医、外科医、精神科医、家庭医、初期研修医など)および看護師です。
 

【メーリングリストおよび本グループに参加するために】
 
登録方法は 


まで、「氏名」「所属」「大学卒業年数(西暦)」「メールアドレス」「facebook IDの有無」を記入の上、メールで連絡下さい。

その際、題名を必ず「若手グループ参加申し込み」といった、わかりやすい題名にして下さい(上記アドレスは登録専用アドレスなので、無題のメールやSpamのような題名などは受理されない場合があります)。

受理されましたら、PCREGメーリングリストから「自己紹介をお願いします」のメールが届きますので、できるだけ早い時期に自己紹介をお願いします(簡単で結構です)。また、上記の情報は名簿に登録され、メールアドレス以外の情報はグループ内で公開されます。

また、本グループは卒後20年目までが参加条件ですので、卒後20年目を超えた方については自動退会となることをご了承下さい。
 
グループの活動の詳しい内容につきましては、登録時に「行動計画書」をメールでお送りしますので、そちらをご参照頂ければ幸いです。
皆様のご参加をお待ちしております!

2013年2月3日日曜日

家庭医療イベントRe: design Med Projectに参加して

2/3本日、家庭医療系のイベント「Re:design Med Project」に参加した。

まあ、一言で言えば「面白い」イベントであった。
個人的には猪飼先生と山崎さんの講演を聴きたいのが第一であったので、そちらが面白かった、とも言えよう。
ただ、他のイベントについてはちょっと「うーん」という部分もあったことは否めない。

その一番の原因は、前回のイベントGeneralist JapanのUstreamを見たときも思ったことだが、
現在の問題点の分析や「プライマリ・ケアは大切だよ」というメッセージが繰り返されるばかりで、具体的な行動プランが何も議論されないこと。
Medical Studioのマニュフェストには「日本に圧倒的な数のジェネラリストが必要だと信じています。それも迅速に。」と書かれていますが、それは同感です。
だとしたら、せっかく全国からジェネラリストをはじめ、それに興味がある専門医やその他一般の方まで参加している貴重な時間を、現状の分析やスローガン繰り返しだけに割いていていいんでしょうか。迅速と言いながらちっとも迅速じゃない。
そもそも、議論されている内容は、私が家庭医療の研修を受けていた5年以上前と、何ら変わりも無いわけです。それで、「迅速に」というところが、首をかしげざるを得ない。
厚労省の班会議なんかの議論じゃあるまいし、保守的な内容ばかりじゃなく、もっとある程度影響力のある人物が「数年後までに○○を××します!(結構過激な内容で)」とか、全体のビジョンを提案して、それに対して「それはおかしい」「言い過ぎだ」「時期尚早だ」とか「いやそれも一理ある」「それくらい過激な意見も必要だ」など喧々諤々やって、「では次回の学会理事会で提案してみましょう」とか「学会総会のテーマにしましょう」とか、そうでなければ主旨に合わないのではないかと思う。

会場にいた方に、上記の件について意見を言ってみると「でも、これから新規にジェネラリストを目指していこうとする人たちや、これまでジェネラリストに興味の無かった他職種の方々も参加しているから、そういう人に現状をわかってもらうためには、こういうイベントも必要なのでは」と意見を頂いた。
それならそれで、そういう主旨でのイベントであると、明言して欲しいところだったが・・・。

ストーリーテリングのセッションは、TED風で、内容はそこそこ面白かったし、思った以上に登壇者の方々のスピーチが上手で驚いた。
しかし、「未来への物語」という割には、過去と現在の話が多く、未来への提言が少なかったのではないだろうか。印象に残っているのは、原先生の「リタイヤした人材で診療所をつくっていく」ということや、佐藤先生の「ナイトスクールで住民との対話を続けていく」ということくらいか。未来への提言では無いが、川島先生の「一生病院総合医」の部分と、長嶺先生の離島での奮闘ぶりは、心に感じ入るものがあった。
それに対し、討論セッションは全体にかなり期待はずれの内容だった。
岡田先生ひとりが気炎を上げていたが、他の参加者は会の趣旨を無視しているのか、討論セッションのはずなのに誰一人として討論をはじめる気配もない。
あれは、いわゆるディベートなのだろうから、たとえ自分の意見と異なる考えだとしても、特に否定論者の方は、相手方の弱点を分析して、とことん攻めるべきだったと思う。それが問題点の洗い出しになるわけなので。
例えば、1回目のセッションでは「ジェネラリスト待望論は是か非か?」というテーマなのに、双方が「是」と最初に言ってしまったから、それで話は終了である。2回目では、そもそも「医療業界を変えるため、企業の方策は通用するか」というテーマで話がされることすらなかった。
結局、医療系のセッションは何を言いたいセッションなのか、ほとんどわからず終わったと言わざるを得ない。このセッションを見て、明日から何が変わるのか?
1回目では実際には「非」の部分にも少しは触れていたのだが、わかりにくかった。ゆでがえるの例を挙げて、現状、国民は低負担で専門的な医療を受けられているのだから、それでいいと思っているのでは、という部分もあったのだ。しかし、最終的には「やっぱり必要」と言っているので、中途半端な意見になっていた。ジェネラリストが多くいる会場で、その非をあげるのは勇気はいるだろうが、困難では無い。会場から出ていたように「臓器別専門性をもってからジェネラリストにならないと思われている」もそうだし、私が言ったように「研修の門戸が狭すぎるので、本当に数を増やそうと思っているのか疑問である」とか、他にも日本での家庭医療の体制を攻めるべきポイントは数多くあるのだから。

それに比べて、猪飼先生と山崎さんの話は内容も一貫しているし、明日からの行動を変えるのに十分な説得力があった。
猪飼先生の話は『病院の世紀の理論』の内容+αで、本人は「あの本がわかりにくかったようで、その内容をよりわかりやすく話すよう呼ばれてます」と語っていたが、今日の講演もなかなかついていくのに大変であった。しかし、QOLを求める時代、病院ではなく地域へ、というメッセージは伝わったのではないかなと思う。
そして山崎さんの話はコミュニティデザインなので、猪飼先生の「病院ではなく地域へ」、じゃあ地域でどういうふうにしていけばいいか、のヒントを与えてくれたように思う。何より、語り口が面白く、引き込まれる。
ただ、どちらも、各地域でどのようにやっていけばいいのか、というノウハウを示したものではないので、すでにヒントがある地域の住人は、良かったろうが、病院内から出たことがない、という方々には、いきなり遠いゴールを見せられて、それに魅せられても、走り方もわからず竦んでしまうのではないだろうか。まあ、それでもスタートラインに着こう、と思えたことが、行動変容の芽を作ったと言えるだろう。

Medical Studioマニュフェストの「次にやること宣言」はすばらしい。
是非応援したいと思うし、実際、サポーターに応募もさせていただき、ボランティア協力もしたいと考えている。
しかし、今後は各イベントをより実り多きものにしてもらいたい。今回のイベントは「コミュニティへ目を向ける」という部分では成功だったと思う。個人的にはいま最も興味があるテーマだったので、私は「面白かった」と最初に言った。ただし多くのジェネラリストにとって、それが優先順位の高い課題かと言われれば、そうとも言えないだろう。early adaptorとなるべき有識者がイベントに参加せず、より実りの少ないものになっていくという悪循環にはまりかねない。

まだ2回目のイベントで試行錯誤もあるだろう。今後に期待したい。