2015年7月23日木曜日

「早期からの緩和ケア外来」(腫瘍内科緩和ケア初診)新設について 

 世界的に「早期からの緩和ケア」が進められる中で、現在の日本においては、外来における緩和ケアの提供体制に様々な障害があることが指摘されてきました。
 当院においても、緩和ケア外来に通院したいというご相談があった場合に、他院における抗がん剤治療中の患者については、現在治療中の各々の病院による対応をお願いしてきました。しかし、都内などの他施設で抗がん剤治療を受けつつも、緩和ケアについては地元で受けたいというニーズや、他院で抗がん剤治療中だが月単位では緩和ケアへの移行が必要になる例で、早めに関係性を作っておきたい、といったニーズが少なからずあることから、「早期からの緩和ケア」を外来で対応する必要性を感じておりました。
 また、当院においては、今後も地域がん拠点病院としての役割を果たしていくべく、地域における緩和ケアの充実のみならず、治療に対する支持療法や意思決定支援、また通院の負担が大きい場合などの抗がん剤治療継続まで幅広く対応するために、腫瘍内科(緩和ケア初診)の枠を新設することとしました。

●病院名称:川崎市立井田病院(〒211‐0035川崎市中原区井田2-27-1)
●正式名称:腫瘍内科緩和ケア初診
●通称:早期からの緩和ケア外来
●概要:毎週金曜日 9時~12時 30分1枠(6名/日)
●対象:川崎市内在住のStageⅣ(再発や転移がある)がんの患者様で、他院において抗がん剤治療継続中に、当院に緩和ケアでの通院もご希望される方
●開始日:2015年8月7日(金)
●初診時対応医師:西智弘(腫瘍内科/緩和ケア)
●チーム連携:がん看護専門看護師をはじめ、ケースワーカーや薬剤師、栄養士などと連携して支援を行います。
●フォローアップおよび緊急時対応:腫瘍内科再診外来または緩和ケア再診外来で継続フォロー致します(再診時担当医は曜日によって異なります)。平日または夜間休日の緊急時対応や入院については当院でも対応可ですが、その場合は当院から情報提供を求める連絡をさせて頂きますので各病院での対応をお願いします。また、この外来は将来の緩和ケア病棟入院を確約するものではなく、緊急入院時はAPCU(Acute Palliative Care Unit:一般床扱い)での対応となります。
●提供される医療/ケア:支持療法、症状緩和、意思決定支援、病状理解支援、精神的ケア(必要に応じて精神科ご紹介)、家族ケア、哲学・倫理的問題への対処、抗がん剤の継続診療(元の通院先への通院負担が大きい場合)など
●対象として除外される場合
・Stage I~Ⅲまでの、進行再発がん以外の方(術後補助化学療法中など)
・非がん疾患の方
・他の緩和ケア外来に通院中の方

「早期からの緩和ケア」の提供体制については、まだどのような形態が優れているのかといった部分において、エビデンスが不十分ではあります。また、上記の体勢において、現在得られているエビデンスの範囲でも「早期からの緩和ケア」の提供としては不十分な部分もあります。その点においては今後、国内外の新規知見を参考にしつつ、また近隣の医療施設との連携を深めていくことで、より充実した「早期からの緩和ケア」の提供体制を作っていけるよう鋭意努力していく所存です。
もし、先生方のご診察されている患者様で、上記対象に当てはまる方、ご希望のある方がいらっしゃいましたら、当院緩和ケア担当 森/目時/川野(代表:044-766-2188)までご連絡いただければ幸いに存じます。
なにとぞよろしくお願い申し上げます。

2015年7月6日月曜日

FOLFIRINOXとGEM+nabPTXの効果は?

先日の「かながわオンコロジー道場」で、興味深いやりとりがあったので書き残しておこうと思います。

「かながわオンコロジー道場」とは、神奈川県内の腫瘍内科医やメディカルスタッフ、医学生さんなどが参加して、症例ベースにディスカッション(他流試合)をするという勉強会です。
ご高名な先生の御高説を拝聴する、という会ではなく、ディスカッションメインなので、全員でカンファレンスをしているような雰囲気で勉強になります。

この日は、膵癌の症例でした。
若い、転移性膵癌の患者さんでPSはよく、現在の標準治療であればFOLFIRINOXを選ばせたくなるような症例です。

そこで、プレゼンターの先生が、「ではみなさん、この症例にどの治療を選びますか?」というので、画面にはFOLFIRINOX、GEM+nabPTX、GEM、GEM+Erlotinib、S1などの選択肢が並ぶ。
そこでディスカッションであるが、大勢の医師が
「FOLFIRINOXが最強の治療法だから…」
という論調で話をしていくなかで、ある医師が
「FOLFIRINOXがGEM+nabPTXより上だという証拠はないのでは?」
という発言をされました。

ここで簡単に復習をしておきましょう。
FOLFIRINOXは、GEM単剤に対してOSで11.1か月対6.8か月と延長、ハザードは0.57(95%CI:0.45-0.73)を証明した治療法です(Conroy T, et al. FOLFIRINOX versus gemcitabine for metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med 364(19):1817-25, 2011. )。




それに対してGEM+nabPTXは同じくGEM単剤に対してOSで8.5か月対6.7か月と延長、ハザードは0.72(95%CI:0.62-0.83)を証明した治療法です(Von Hoff DD, et al. Increased survival in pancreatic cancer with nab-paclitaxel plus gemcitabine. N Engl J Med.369(18):1691-703, 2013.)。




GEM単剤については、どちらの比較試験でも6.7~6.8か月と同じ程度なので、多くの医師は、この2つの試験を比べたときに、11.1か月と8.5か月という数字をみて「FOLFIRINOXのほうが効果が高い治療」と言っているわけです。

しかし、確かにそれらしく見えるのですが、本当はセッティングの異なる2つの試験を比べて、「こっちの治療法のほうが強い」と言い切るのは、行儀がよくないことであるのは確かです。実際に、絶対こっちのほうが上だろう、と思って比較試験をしてみて、思いもよらない結果が出たことも、過去の歴史の中では数多くあるからです。head to headでの比較試験をしていない2つの治療法は厳密に比べることはできません。

また、ここで統計の先生からも
「ハザード比がきれいに分かれているわけではなく重なっているので、FOLFIRINOXのほうが勝っているように見えるのは偶然の可能性がゼロとは言えない」
とコメントがありました。つまり、FOLFIRINOXとGEM+nabPTXのハザード比を並べてみると
・0.57(95%CI:0.45-0.73)
・0.72(95%CI:0.62-0.83)
であり、FOLFIRINOXの95%CI上限の「0.73」は、GEM+nabPTXの95%CI下限「0.62」を上回っているので、確率的には、GEM+nabPTXがFOLFIRINOXと同等であるという可能性もゼロではない、ということです。
また、症例数もFOLFIRINOXは342名の試験で、GEM+nabPTXは861名と倍以上であり(それはサンプルサイズの設定の問題もあるのでしょうけれども)、後者のほうがより再現性が高い可能性を指摘していました(95%CIの幅をみてもバラつきが少ない)。

そしてもう1点は、FOLFIRINOXを行う時に、2コース目で好中球減少のため延期や減量せざるを得ないケースが多発するため、最初から減量して行うやり方(modified FOLFIRINOX)が検討されているという話が出たときに、また別の医師から
「full doseでFOLFIRINOXの効果の話をしているときに、最初から減量する、というのであれば元も子もないのでは」
といった指摘が出ました。最初から減量してしまうのであればエビデンスから外れ、full doseのGEM+nabPTXとどちらが効果が高いかなんてことはますます不明になります。

・・・ということで、結局FOLFIRINOXとGEM+nabPTX、どちらがよいレジメンなの?という点ではよくわからなくなってしまいましたが、まあそうは言っても一般的にはFOLFIRINOXのほうが、腫瘍縮小効果を狙いたいとき(奏効率は32%対22%)や、若くて少しでもOS延長効果を狙いたい、というときには選択肢としての重みは強くなる、ということで良いのだと思います。
ただ、無条件にFOLFIRINOXのほうが上だ!と考えるのは、上記のような理由からちょっと考えたほうがよいなと思いました。特に今後、modified FOLFIRINOXがcommunity standardとなっていくのであれば、それとGEM+nabPTXの比較試験をやってもよいのではないかとも思いました(症例集積悪そうですが・・・)

2015年7月3日金曜日

あなたにとって「マギーズセンター」とは何ですか?

 最近、メディアやSNSなどで「マギーズセンター」を目にする機会が増えてきました。
先日の緩和医療学会学術集会でも、招待講演およびシンポジウムにて、マギーズセンターが取り上げられていました。

 さて、そのマギーズセンターですが、よく知らない方のために、マギーズトーキョープロジェクトのWebサイト(http://maggiestokyo.org/)から、その説明をした部分を抜粋しておきます。

造園家で造園史家でもあったマギー・K・ジェンクス氏は、乳がんが再発し「余命数ヶ月」と医師に告げられた時、強烈な衝撃を受けたといいます。にもかかわらず、次の患者がいるのでその場に座り続けることが許されませんでした。(中略)
「自分を取り戻せるための空間やサポートを」
マギーは、がんに直面し悩む本人、家族、友人らのための空間と専門家のいる場所を造ろうと、入院していたエジンバラの病院の敷地内にあった小屋を借りて、誰でも気軽に立ち寄れる空間をつくりました。(中略)がん患者や家族、医療者などがんに関わる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも利用することができます。マギーズセンターに訪れるだけで人は癒され、さまざまな専門的な支援が無料で受けられます。がんに悩む人は、そこで不安をやわらげるカウンセリングや栄養、運動の指導が受けられ、仕事や子育て、助成金や医療制度の活用についてなど生活についても相談することができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていてもいいのです。マギーは、そこを第二の我が家と考えました。(中略)マギーズセンターのように、がんと向き合い、対話できる場所が、病院の中ではない街の中にあること。それは本当に画期的なことです。「場」の持つ力は、医療分野のみならず建築分野の専門家の共感も得てきました。

 そして2014年、日本でもマギーズセンターを作ろうという動きが本格化し、2014年11月に行われたクラウドファンディング(ready for!)で、建設のための目標額700万円に対して大きく上回る2200万円以上もの寄付金を集め、当時のready for!での寄付金総額1位となりました。建築のための土地も確保され、現在着々と計画が進められています。

 私が、このマギーズトーキョープロジェクトが素晴らしいと思うことのひとつは、寄付文化の乏しい日本において、チャリティーを中心に建設や運営資金確保を考えているというところです。普通なら、国や自治体に働きかけて、補助金を得よう、と考えそうなところを、運営のおひとりが「日本に寄付の文化を」と言い切ったところに感銘を受けました。その社会的な意義と、ビジョンに対する共感から、私も少額ではありますが寄付をさせていただき、活動を応援しています。

 しかし、この事業において、私が懸念するところがひとつだけあります。
 それは、この事業をみている方々が、何を考えているのか、そして「マギーズセンター」をどう思っているのか、ということです。
 マギーズセンターの取り組みは素晴らしい、そしてそれが東京にできることは喜ばしいことではあります。しかし、その恩恵を直接に受けられる患者さん・家族は、東京都内が主、せいぜい神奈川・埼玉・千葉の東京寄りの地域の方くらいでしょうか。少なくとも九州や北海道の患者さんにとって得られるものはありません。そのような状況で、その患者さんたちを支える医療者に、いくらマギーズの素晴らしさを伝えても「自分たちには関係ない」と冷ややかな目を向けられても仕方がないのかなとも思うのです。
 では、全国各地にマギーズセンターの名を冠したセンターを作っていけばよいのでしょうか。私はそれにも反対です。現在の日本の寄付力(と表現したらいいでしょうか)を結集しても、東京1施設の運営が安定して可能かどうかもわかっていません。そのような状況で、全国各地にマギーズができることは、その力を分散させることになります。そうなれば結局、公的資金を使えばよい、という方向にいきかねません。「公立マギーズ」が必ずしも悪いものかどうかはわかりませんが、当初の理念からは離れてしまう可能性を感じます。また、資金だけではなく、人材の分散も懸念されます。

 私は、基本的にはオールジャパンで、かつ東京一極集中でマギーズを運営していくべきだと考えています。それは「東京の運営が安定するまでのしばらくの間」という意味ではなく、かなり長い期間、半永久的にそれがよいと考えています。集められる限り全ての資源を集めて、質の向上につとめるべきです。
 でも、それは前述したように、「なぜオールジャパンなのか」を説明する必要がありますし、支援をしている方々も、ひとりひとりが考えたほうが良いことだと思っています。
「あなたにとって、マギーズトーキョーができることはどんな意味をもっているのか?そして今後あなたは何をしていくのか?」

 私の中では、マギーズトーキョーは、これまで全国各地で活動してきた、様々な相談支援事業にとっての規範・リーダーとなることを期待して支援しています。がん治療の領域における国立がん研究センターのようなものです。
 これまでは、相談支援事業を各地域で独自に立ち上げていても、多くが試行錯誤を繰り返しながら運営してきたと思います。しかし、マギーズトーキョーができれば、それは世界基準での施設・活動であり、それを日本語で見たり聞いたりできることには大きな意義があります。その意味で、北海道や九州の方々には直接的な意義は乏しくても、間接的に影響を与えることはできますし、していくべきだと思います。
 だからこそ、その中央であるマギーズトーキョーには、高い質の維持と発信の義務、リーダーシップが求められると考え、期待しています。
 そして私は、自分の地域で、マギーズトーキョーには及ばないまでも、その活動を大いに参考にして、この地域の実情に合った患者さんや家族の支援をしていきたいと考えています。それは自分の地域にマギーズを作るという意味ではなく、もっとその理念を地域に溶け込ませるといった、質の異なる活動です。これまで行ってきた「ほっとサロンいだ」や「モトスミがん哲学カフェ」もそうですし、+Care Projectもその発展形になるでしょう。何より、全国的にマギーズ運動が盛んになっていくことは、自分の地域にもそういった活動の芽が増えていく可能性も期待できます。仲間が増えることでできることも増える可能性があることも大きな期待です。

 マギーズトーキョーが東京にできるだけでは何も変わりません。
 そのことに対し、あなたがたが各地域で何ができるか、ということをひとりひとり考え行動することが日本を変えていくのだと思っています。