あなたにとって「マギーズセンター」とは何ですか?

 最近、メディアやSNSなどで「マギーズセンター」を目にする機会が増えてきました。
先日の緩和医療学会学術集会でも、招待講演およびシンポジウムにて、マギーズセンターが取り上げられていました。

 さて、そのマギーズセンターですが、よく知らない方のために、マギーズトーキョープロジェクトのWebサイト(http://maggiestokyo.org/)から、その説明をした部分を抜粋しておきます。

造園家で造園史家でもあったマギー・K・ジェンクス氏は、乳がんが再発し「余命数ヶ月」と医師に告げられた時、強烈な衝撃を受けたといいます。にもかかわらず、次の患者がいるのでその場に座り続けることが許されませんでした。(中略)
「自分を取り戻せるための空間やサポートを」
マギーは、がんに直面し悩む本人、家族、友人らのための空間と専門家のいる場所を造ろうと、入院していたエジンバラの病院の敷地内にあった小屋を借りて、誰でも気軽に立ち寄れる空間をつくりました。(中略)がん患者や家族、医療者などがんに関わる人たちが、がんの種類やステージ、治療に関係なく、予約も必要なくいつでも利用することができます。マギーズセンターに訪れるだけで人は癒され、さまざまな専門的な支援が無料で受けられます。がんに悩む人は、そこで不安をやわらげるカウンセリングや栄養、運動の指導が受けられ、仕事や子育て、助成金や医療制度の活用についてなど生活についても相談することができます。のんびりお茶を飲んだり、本を読んだりするなど自分の好きなように過ごしていてもいいのです。マギーは、そこを第二の我が家と考えました。(中略)マギーズセンターのように、がんと向き合い、対話できる場所が、病院の中ではない街の中にあること。それは本当に画期的なことです。「場」の持つ力は、医療分野のみならず建築分野の専門家の共感も得てきました。

 そして2014年、日本でもマギーズセンターを作ろうという動きが本格化し、2014年11月に行われたクラウドファンディング(ready for!)で、建設のための目標額700万円に対して大きく上回る2200万円以上もの寄付金を集め、当時のready for!での寄付金総額1位となりました。建築のための土地も確保され、現在着々と計画が進められています。

 私が、このマギーズトーキョープロジェクトが素晴らしいと思うことのひとつは、寄付文化の乏しい日本において、チャリティーを中心に建設や運営資金確保を考えているというところです。普通なら、国や自治体に働きかけて、補助金を得よう、と考えそうなところを、運営のおひとりが「日本に寄付の文化を」と言い切ったところに感銘を受けました。その社会的な意義と、ビジョンに対する共感から、私も少額ではありますが寄付をさせていただき、活動を応援しています。

 しかし、この事業において、私が懸念するところがひとつだけあります。
 それは、この事業をみている方々が、何を考えているのか、そして「マギーズセンター」をどう思っているのか、ということです。
 マギーズセンターの取り組みは素晴らしい、そしてそれが東京にできることは喜ばしいことではあります。しかし、その恩恵を直接に受けられる患者さん・家族は、東京都内が主、せいぜい神奈川・埼玉・千葉の東京寄りの地域の方くらいでしょうか。少なくとも九州や北海道の患者さんにとって得られるものはありません。そのような状況で、その患者さんたちを支える医療者に、いくらマギーズの素晴らしさを伝えても「自分たちには関係ない」と冷ややかな目を向けられても仕方がないのかなとも思うのです。
 では、全国各地にマギーズセンターの名を冠したセンターを作っていけばよいのでしょうか。私はそれにも反対です。現在の日本の寄付力(と表現したらいいでしょうか)を結集しても、東京1施設の運営が安定して可能かどうかもわかっていません。そのような状況で、全国各地にマギーズができることは、その力を分散させることになります。そうなれば結局、公的資金を使えばよい、という方向にいきかねません。「公立マギーズ」が必ずしも悪いものかどうかはわかりませんが、当初の理念からは離れてしまう可能性を感じます。また、資金だけではなく、人材の分散も懸念されます。

 私は、基本的にはオールジャパンで、かつ東京一極集中でマギーズを運営していくべきだと考えています。それは「東京の運営が安定するまでのしばらくの間」という意味ではなく、かなり長い期間、半永久的にそれがよいと考えています。集められる限り全ての資源を集めて、質の向上につとめるべきです。
 でも、それは前述したように、「なぜオールジャパンなのか」を説明する必要がありますし、支援をしている方々も、ひとりひとりが考えたほうが良いことだと思っています。
「あなたにとって、マギーズトーキョーができることはどんな意味をもっているのか?そして今後あなたは何をしていくのか?」

 私の中では、マギーズトーキョーは、これまで全国各地で活動してきた、様々な相談支援事業にとっての規範・リーダーとなることを期待して支援しています。がん治療の領域における国立がん研究センターのようなものです。
 これまでは、相談支援事業を各地域で独自に立ち上げていても、多くが試行錯誤を繰り返しながら運営してきたと思います。しかし、マギーズトーキョーができれば、それは世界基準での施設・活動であり、それを日本語で見たり聞いたりできることには大きな意義があります。その意味で、北海道や九州の方々には直接的な意義は乏しくても、間接的に影響を与えることはできますし、していくべきだと思います。
 だからこそ、その中央であるマギーズトーキョーには、高い質の維持と発信の義務、リーダーシップが求められると考え、期待しています。
 そして私は、自分の地域で、マギーズトーキョーには及ばないまでも、その活動を大いに参考にして、この地域の実情に合った患者さんや家族の支援をしていきたいと考えています。それは自分の地域にマギーズを作るという意味ではなく、もっとその理念を地域に溶け込ませるといった、質の異なる活動です。これまで行ってきた「ほっとサロンいだ」や「モトスミがん哲学カフェ」もそうですし、+Care Projectもその発展形になるでしょう。何より、全国的にマギーズ運動が盛んになっていくことは、自分の地域にもそういった活動の芽が増えていく可能性も期待できます。仲間が増えることでできることも増える可能性があることも大きな期待です。

 マギーズトーキョーが東京にできるだけでは何も変わりません。
 そのことに対し、あなたがたが各地域で何ができるか、ということをひとりひとり考え行動することが日本を変えていくのだと思っています。


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