Pt's Voice023:私もう一度、仕事に戻りたい



何も食べたくありません
食べものを見るだけで嫌になる
もう死なせてください

転院してきたその日に、その方は用意したお膳をひっくり返し、薬を飲むことも拒んだ

固くこわばった表情
医師も看護師も、かける言葉もない
でも、毎日欠かさずに、ベッドサイドに座った
何も話さない日もあれば
ぽつぽつとお話ができる日もあった

ある日

どうして、毎日来て下さるのですか?

と、その方は尋ねた

「そうですね。あなたが元気かどうか、毎日心配しているからですかね」

と答えると、その方は驚いた顔でこちらを向き、そして窓の外へ目を向けた

それから少しずつ
少しずつではあるが
その方は変わった

薬を拒否しなくなった
食事を食べるようになった

先生、私、歩けるようになりたい

と、リハビリを始めた

先生、私もう一度、仕事に戻りたい

その方は、幼稚園の先生だった
夫は
「先生を困らせるものではない」
とたしなめたけど
「いいですね。それができるよう応援しています」
と答えると、その方は恥ずかしそうに笑った

そして数か月後
その方は、子どもたちが待つその場所へ戻っていった
来た時とは全く違う
穏やかな笑顔で

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Pt's Voice=ペイシェンツ・ボイスは「患者の声」をデジタルアーカイブとして遺すプロジェクトです。

有名人の言葉は時を超え、後世に語り継がれ、その言葉は死ぬことはありません。
一方で、その人生を懸命に生きたひとりひとりの言葉も、その言葉に負けることがない輝きを持っています。
それらの言葉の生を引き継いでいくために、記録を残していきたいと思います(毎週月曜日更新)。


Pt's Voiceでは私の解釈は一切記しません。
患者・家族と医療者との対話のみです。
その生の声から何を学ぶか?それは皆さん次第です。

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