Pt's Voice004:友人と富士山に登りたい。だから治療してくれ。



もう十分長く生きたし、思い残すことはないよ
治療を受けてしまったら、また人生に未練が生まれてしまう

と言って、その方は全ての治療を断わった。
私は説得したけども、その方の意思は固かった。
それもその人の生き方。強い意志ならばそれもひとつだろう。

しかしある時、その方は言った。

なあ先生、がんを小さくする方法ってのはないものかな?

「えっ?それは抗がん剤ですが、治療はしないって…」

するとその方は照れ臭そうに

いや、昔からの友人がね、「死ぬ前に富士山に登ろうぜ」って言うんだ
でも、がんが大きくなってしまって今の体じゃ山に登れない
だから、ちょっとだけ、小さくしてくれないかな
友人との約束のために

ああ、そうなんですね。
その友人との約束が、人生の未練になってしまったのですね。
そんな未練は、いいですね。
あなたと友人との約束のために、医師として全力を尽くしますよ。

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Pt's Voice=ペイシェンツ・ボイスは「患者の声」をデジタルアーカイブとして遺すプロジェクトです。

有名人の言葉は時を超え、後世に語り継がれ、その言葉は死ぬことはありません。
一方で、その人生を懸命に生きたひとりひとりの言葉も、その言葉に負けることがない輝きを持っています。
それらの言葉の生を引き継いでいくために、記録を残していきたいと思います。

Pt's Voiceでは私の解釈は一切記しません。
患者・家族と私との対話のみです。
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