「待合室から医療を変えようシンポジウム」

本日、東大で行われた「待合室から医療を変えようシンポジウム」に参加してきた。

これは、全国の医療機関にある「待合室」30万カ所を、数が多いだけでなく社会的に信頼できる空間であるところの「有効な医療資源」と考え、しかも待合室ではある一定の時間を強制的に過ごさないとならないわけであるから、その「待たされる」マイナス面ばかりを強調するのではなく、発想の転換によりプラス面を引き出すことがミッションとされている。

全部で4時間のシンポジウムだったので、全内容をここに書くことはできず、印象的だったことのみを抜き出して記録する。

最初の演者は、東大病院も設計された建築家の岡本和彦先生である。
岡本先生の講演では、建築設計がもつ可能性に触れつつ、しかし待合室については建築学の教科書でも半ページ~1ページくらいしか割かれていない事実に触れ、そういった中でどのような研究がされてきたか、ということについて話して頂いた。建築でも、医療でのEBMと同様EBD(Evidence Based Design)という用語があり、研究に基づいた設計がされているのだという。
待ち時間や患者さんの動線、診察に行き着くまでの手間などを省くことが、ムダの排除につながるが、医療機関ではこれらを排除しようとすると経営そのものに関わる問題にもなり、中々難しいのだという(例えば、動線を短くする=廊下を短くする=病院の規模縮小、待ち時間を減らす=診察ブースを増やす=医師確保の困難、人件費増)。
中待合はまったく日本独自の仕組みで、徐々に診察室に近づいていく心理的配慮や、中待合で次の診察の準備をしてもらうことでの時間短縮の効果などがある。
最近のデザインでは、病院の敷地内を住民が通り抜けられるようにして、その周囲にパン屋や保育所を設置する例や、フードコートやスーパーマーケットを設置する例、病院の回廊自体をギャラリーにするなど、病院内に患者さん以外の方を取り込むような仕組みも多いのだという
窓から見える景色がレンガの壁か緑の木々か、で病後の回復が異なる可能性を示唆する論文から、少なくともナイチンゲールが示したように「病院が害をなさないように」デザインするのが大切と言っていたのが印象的であった。

病院図書室司書の石井さんの講演も、印象的であった。
町の本屋さんから、病気に関する本を買ってきて、ただ同じように陳列するだけでは、リテラシーは上がらない。それでは患者図書室とは言えない!」
とのお言葉に、自分もその業務に一部関わっている関係上、ちょっと耳が痛かった。
患者さんに役立つ本棚にするためには、専門的な医学書だけでも、家庭の医学の本だけが置いてあるだけでもダメ。それらはあくまでも、生物学的な断片的な情報であり、自分の生活の行く末を示してくれるものではないからである。患者さんは、初めてかかる病気について、「先行きが見えない」不安を抱いているわけであり、病気と生活に対応する情報源にアクセスできるよう、工夫が必要である。
そのひとつが闘病記であるが、闘病記も、タイトルによっては何の病気の本なのかわからないものが多く、きちんとそのような情報にアクセスできるように、こちら側が整理する必要がある。

カフェを中心に病院を、と訴えた鈴木さん(みのりCafe店主、患医ねっと代表)の講演も耳が痛かった。
病院には各種チェーン店のカフェが入っていることが最近多くなってきたが、カフェの店員はあくまでもそのカフェのことしか知らず、また、「患者のための病院」であるはずなのに、注文は全て横文字、そしてセルフサービス式で「自分で飲み物を席まで運べ」というのはありえない!と声を上げていた。
言われてみるとその通りで、病院を利用している方の多くは高齢者であることを考えると、もっとサービス面で独自性を出してもいいだろうになあ、と思ったのである。せめて、病院内のコンシェルジュ的な役割を果たしてもらうことくらいは期待してもいいのかもしれない。
鈴木さんの考える「カフェを中心とした病院」のコンセプトも、とても心躍るデザインであり、何か一緒にできることはないかなあ、とワクワクさせられるものであった。

他にも、医師の花木先生、電通の増田さん、日経メディカルの山崎さん、栄養士の前田さん、メディキャストの大西さんからも非常に興味深い、「待合室の可能性」についての講演があり、あっという間に4時間が経過した、という印象であった。

私の中で、今回得られた気づきをまとめると
・待合室は決して「順番を待つだけの」場所ではないと考えた方が良い
というのを大前提として、
・待合室をどのようにデザインしても、全員にとって100%満足なコンテンツは提供できないと考えた方が良く、多様なコンテンツ・個別性(自由度)の高いコンテンツをどれだけ提供できるかがカギである。
・待合室にいるのは患者さんだけではなく、ボランティアさんやサービスの方々、地域住民もいて良いし、医療者もまたその中に積極的に出て行くべきである(双方向性のコミュニケーション)。
・待合室はまだまだ未開発の部分が多く、ビジネスの芽が隠れている可能性が高い。

今後も、今回の活動は「待合室学会」として発展していく可能性を検討しているとのことである。
是非、全国での活動の発表の場として整えて頂き、待合室もそうであるが病院内の売店やカフェも含めたアメニティ機能を高めていく活動を広げて頂くことを期待する。

コメント

  1. 西先生。待合室から医療を変えようで先生のお話を見ることが出来ました。私は数年前に統合医療をやっている先生と出会い通っていて互いに医療現場その他に関係することを長年話しあっています。そこで毎日新聞で河内文雄先生の記事が載っていて興味を持ち見させていただきました。素晴らしいお考えだと感じます。次回機会が
    あれば講演に参加したいと思いました。

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  2. コメントありがとうございます。次回は、待合室学会になっているのかもしれませんが、一緒に参加しましょう!

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