緩和コンサルタントと主治医との差

緩和コンサルタントとして仕事をはじめて2ヶ月ちょっと経った。
コンサルタントの仕事は岩田健太郎先生の『コンサルテーション・スキル』を参考にし、
「主治医となるべく直接または電話でディスカッションする(カルテを交換日記にしない)」
「自分が行った診療内容を根拠を含めて詳細に書く(根拠が不明だと主科が混乱する、というのと教育効果を期待)」
「コンサルタントは主治医ではないが、きちんと患者さんの診療に責任をもってあたる」
など。

しかし、岩田先生はあくまで「感染症コンサルタント」であり、それは「緩和コンサルタント」とは少し違うのではないかなーと最近感じるようになってきた。
それは、院内の他の「チーム」、例えばNSTやICTの活動スタイルと、自分たちの活動スタイルが全く異なる、というところからもわかる(当院だけでなく、他の病院のチーム活動を含めても)。
つまり、NSTやICTは、それぞれ「栄養」や「感染」という専門性で動いているが、その業務のほとんどは、その「専門」となる部分「のみ」であり、主科の大本となる治療方針や患者さんの人生に踏み込んでいくことはほとんどない。
一方、緩和チームの活動は、それだけでは済まない。
患者さんの人生に踏み込んでいく必要があるし、場合によっては主科の方針を変えるように動かなければならないこともある。
それは緩和コンサルタントが患者さんのQOLを上げる、ということを至上命題にあげている以上、仕方がない(中には痛みだけとるのが自分たちの仕事よ~という緩和チームもあるのかもしれないが)。

そうはいっても緩和コンサルタントは主科の主治医や担当医とは違う。
緩和コンサルタントは患者さんからみれば、やはり補助的な立場、ということになろう。
しかし、その立場を逆手に取ると、新しい存在意義があるな、ということに気づいたのである。
それは「意志決定支援」。
これは、海外の論文ではすでに言われていることであり、先進的な緩和チームではすでに当たり前なのかもしれないが、自分はいまいちピンときていなかったので、今回自分の仕事を通して少しずつわかるようになってきた気がする。
例えば、Temelの論文で「早期からの緩和ケア」はQOLや不安、抑うつが改善し、生存期間が延びる可能性が指摘されているが(NEJM. 2010;363:733-42)、そのうち早期からの介入群(EPC群)では化学療法60日以内死亡が少ない、ということや(J Clin Oncol 30:394-400. 2011)、治療開始前には自分の病状が正確に理解できていなかったのがEPC群ではそれが改善する、といったことが報告されている(J Clin Oncol 29:2319-2326.  2011)。これはつまり、緩和チームが関わることにより、自分の病状を正確に理解し、体力が落ちてくる時期に無駄な抗がん剤治療をしないことが予後改善につながる可能性を示唆する。
主治医はえてして、患者さんに正確な病状を伝えることを躊躇する。
医師も人間、患者さんにとってつらい話をすることは、「信頼関係が崩れるのではないか」「患者を傷つけるのではないか」と、話をぼかしてしまうこともある。情に流されて無駄とわかっている抗がん剤を投与してしまうこともあるのだろう。
また、担当医は主治医ではないから、「方針や病状については主治医に聞いて下さい」となる。
しかし、コンサルタントは何しろ補助的な立場なので、主治医のように「信頼関係」が重視されるわけではなく(軽視して良いということではないが)、かといって担当医とも違い立場は独立している。
そのため「患者さんにとってつらい話」を、自分が憎まれてもいいから、ある意味捨て身の覚悟で話すこともできる。
生死にかかわる話はときとして残酷である。心優しい主治医、これからも関係を一生続けていかなければならない主治医にとっては、それは大きなストレスになる。また、それをゆっくり話し合うほどの時間も主治医にはない。
しかし、生死に関わるからこそ、真摯に話し合わなければならない。
緩和コンサルタントは、そこに関わることができる。「言葉」は緩和医の最も得意とする薬、という点もある。時にはナイフを用い、時には包帯を巻くように。主治医の曖昧な言葉を翻訳することもできる。

緩和コンサルタントとしての仕事は、やる前はあまり有用と思っていなかったが、
その本質をつきつめていくと実は奥が深そうである。
まだまだ自分の知らない世界がありそうでワクワクする。

コメント

  1. 初めてコメントします。現在夫が化学療法、緩和医療を大学病院で受けています。主治医と緩和医の意志疎通が充分でなく説明等二度手間になることがよくあります。電子カルテになって久しいと思うのですがこう言う状況は主治医に訴えればいいのでしょうか?コンサルタントとしてのご意見をお聞きしたく思います。m(__)m

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  2. コメントに気づいておらず失礼しました。
    電子カルテになっても、細かい状況はあまり伝わらないことも多いかもしれません。
    どちらに相談、というよりは困っていることについて医師を使い分ける、というほうがいいかもしれません。

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