免疫療法について

先ほどツイッターでツイートした内容をブログにまとめてみる。

【免疫療法1】地元紙に免疫療法の特集が載ったことから、外来で一大免疫療法ブームが起きていることに対して。私は個人的には免疫療法を否定するものではないが、ちょっとしたお祭り騒ぎに、冷静になって考えてみる。
【免疫療法2】まず免疫療法の効果だが、とある免疫療法クリニックのデータでは胃癌での奏効率10%、膵癌で12%くらい。日本での胃癌標準治療であるS1/CDDPで奏効率40%前後、膵癌のGEMは10%程度。
【免疫療法3】免疫療法は雑多な患者群なので、一概に結果を比べられないが、奏効率においては抗がん剤を超える効果があるとは言えなそう。少なくとも万人に効く「夢の治療」とは言い難い。奏効率だけでの比較ももちろんできないが、生存期間についてはデータもないので比較もできない。
【免疫療法4】それでも前述のクリニックはデータを出してるだけまだ良心的で、他のクリニックでは診療実績のデータはあっても効果についてのデータもない。「年間5000人の診療実績!」と広告しておきながら、そのうち効果が出ているのは何人、と広告しないのはいかがなものか、と。
【免疫療法5】そのようなクリニックの特徴は、特に効いた症例のみを「症例報告」として提示していること。症例報告レベルであれば、抗がん剤でも全身の転移が全て消えた例もあるし、進行膵癌に対してGEMとS1で8年近く治療を続けている症例だってある
【免疫療法6】効いた症例もある、という点は否定しないが、それが「年間5000人の診療実績」のうち何人に期待できるのか。また、その中には抗がん剤との併用例も含まれるはずだが、それは抗がん剤が効いているのであって免疫療法は意味なし、という例はないのか。月に150~200万円もかかるのにだ。
【免疫療法7】あと、抗がん剤の入っていない初回治療の方と、1st lineが終わった方、2nd lineが終わった方、それぞれで効果の違いはないのか。それを示さないと、患者さんがそれぞれの段階で「抗がん剤を続けるか、免疫療法か」を選ぶことが本当はできないはず。「夢のような治療」を匂わせて誘導するのは良心的とは言えないのでは。
【免疫療法8】抗がん剤との併用、というのも問題は多い。仮に、免疫療法が効果があって、抗がん剤は無効の場合、癌は小さくなるのでどちらの治療も続けられるが、実際には抗がん剤は体に毒なだけで意味がない、ということになるし、逆であればお金の無駄になる。
【免疫療法9】また免疫療法は副作用少ないことが売りだが、まれにアレルギー反応が起こる、と記載がある。抗がん剤でもアレルギーが起きることはあるから、併用の場合、どちらの副作用か判別しかねる。結果、実際には悪者ではない抗がん剤を止めざるを得なくなり、結果的に余命が短くなる例も想定される。
【免疫療法11】免疫療法中に仮に状態が悪化しても、自施設では対応しない、というのも問題点のひとつ。クリニックである以上、紹介元の病院とは密に連携を取り、万が一の時の対応方法や経過報告などを行うべきであると思うが、今のところそのような施設に出会ったことはない。急変時に手紙ひとつで送り返してくるだけである(しまいには「地元での療養を患者自身がご希望された」とか書いてくる)。
【免疫療法12】免疫療法は今後に期待できる治療法かもしれない。だが現在はまだ研究段階に過ぎない、としか言えないと思う。私は上記のように説明し、それでも免疫療法を希望される場合はもちろんご紹介するし、仮に急変した場合はこちらで診ないとならないとは思っている。ただ、本当に患者のことを思うのであれば、データの科学的分析と中立的な情報提供、患者の人生を考えたプランニングと療養環境の整備、なども考慮に入れてもらいたいものである。
【免疫療法13】患者さんも、広告にあるような「劇的に効いた症例」のみに目を奪われず、色々な専門家の意見を聞いて冷静に判断して頂きたい。「劇的に効いた症例」なら抗がん剤治療でもある。ただ、我々はクリニックのように派手に宣伝をしていないだけである。

よく勘違いされることだが、私たち医師はいくら高い薬を売っても、全く儲からない。薬屋さんが儲かるだけで、場合によっては高い薬を出す方が病院の赤字になることもある。なので、劇的に効いた症例のみを患者さんに向かってアピールする意味はないし、中立的な考えでアドバイスもできる。

コメント

  1. 至極まっとうなご意見ですが、「だからどうすればいいの?」というところにまったく踏み込んで書かれていないところが残念ですね。否定でも肯定でもない、ただただ当たり前のことを当たり前のように列挙したところで何の解決になりませんよね。でもこれはそんな文章です。
    せめて抗がん剤のほうが劇的に効くんだと言い切っていれば、それはそれは男前な文章だったんでしょうけど、まぁそんなことないですしね。笑)

    例えばTS-1を1年間飲み続けたとしましょう。人にもよるけど、下痢に嘔吐、口内炎に切れ痔、脱毛、色素沈着、ベコベコに歪んだ爪、顔のむくみ、そんな副作用を色々経験したとしましょう。そしていずれは日常生活もままならなくなって、しかも結果は大して効果もなかったりする現実を味わうはめになると。こういうケースだって確率論でいうとかなりあるでしょう。
    そんな時に副作用があまりない治療法のことを聞かされたら、そりゃ「夢の治療法」だと思いますよね。大して効果がないと言われても抗がん剤だってそうだ、ならいっそのこと免疫療法でもと、経験者なら思いますよ。だからこその、もっとちゃんしとした啓蒙をすべきなのですよ。

    擁護するわけじゃないですが、少なくとも私が受けたいくつかの免疫に関する治療に関して、担当してくれた医師はいずれもあらかじめ効果のほどはあまり期待できないぐらいのことをしつこいほど念押ししてきましたよ。そんな夢の治療法を語られた経験など一度もありません。
    言っているのは免疫療法の宣伝担当であったり、その口車に乗せられた無知なマスコミであったりするわけで、だからむしろそちらに矛先をむけるべきではないのでしょうか。

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  2. 個人的にはガセでもなんでもいいから免疫療法が一回ブームになって、多くの人に試してみて欲しいと思う。そしてシロクロつけて欲しい。効くのか効かないのか。

    今は結論付けするには圧倒的にデータの母数が足りていない状態ではないのでしょうか。

    本当はちゃんと場合分けしてデータ取りすべきであることは分かっているけれど、そんな悠長なことをやっているからいつまでたっても認可が下りないわけで、保険が適用されないとはいえ治療が受けられる今日、色々な人に試してもらって、ぼんやりとでもいいから、効くか効かないのかの結論付けをして欲しいと思う。

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  3. コメントありがとうございます。
    これまで、コメントが即反映されず不思議と思っていましたが、Googleアカウント持っていない方からの投稿だと、一時別のフォルダに格納されるようです。無知で申し訳ありません。

    さて、「ではどうしたらいいの?」という部分についてですが、これは(癌腫によりますが)抗がん剤が癌を根治させる確率が低い現状で、何が「正しい」選択かとは言えないと思っています。
    抗がん剤をやる方より、緩和ケア単独を選ばれる方が間違っているとは思いません。少なくとも他人(医師も含めて)がその人の生き方にまで口出しできることではないでしょう。免疫療法もしかり、です。
    ただ、ご指摘あるような「当たり前のこと」すら正しく伝えられていない現状があるので、私たちは専門家としてその情報を伝え、アドバイスし、相談に乗る義務があります(免疫療法やると「治る」と考えている方も大勢いるし、そこまでではなくても何十年も生きられると考えていることが多い)。
    なので、ご指摘の通り、批判されるべきは効果を誇大にみせかける宣伝やマスコミ(出版業界も含め)なのでしょう。

    データについても、これだけ長い期間多くの患者にダラダラと治療を続けているのだから、きちんと「臨床試験」の体裁を取って、患者背景を整え、前向き試験でのデータを集めて欲しい。
    こんな事は今言われ始めたことではなく、何年も前から同様の批判を受けているわけだから、それでもやろうとしないのは臨床試験のノウハウも知らないような素人集団なのか、臨床試験をすると何かまずいこと(金や利権がらみ)でもあるのか?と勘ぐってしまうのです。
    年間何千人も治療をしている実績があるのであれば、データの母数は十分に確保できるのでは、と思うのですが・・・

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