みんな自分が見ている世界が「正しい」と思いたい


今回、BuzzFeedで執筆した「呪いの言葉」の記事。
多くの方にシェアされ、たくさんの反響をいただきました。

あなたも「呪いの言葉」をかけていませんか? 「別の治療法なら治る可能性があったのに」という医療者から心を守るには

「もっといい治療法があるわよ」という知人から心を守るには

さて実は、今回の記事にアドバイスをしてくれた福島沙紀臨床心理士から、この「呪いの言葉」の背景にはある有名な心理学理論が関係しているということを指摘されていました。
今回の記事では、なるべく専門用語を使わないことにしていたので書かなかったのです。
しかし、この心理学理論自体はとても重要な概念ですので、このブログで解説していきたいと思います。

その理論とは「公正世界仮説」と呼ばれるもの。

あなたは、どんな世界に住みたいでしょうか。
努力した結果が必ず報われる世界?
犯罪や災害がなく、大切な人と平和に暮らせる世界?

誰もがいろいろな理想を持っていますが、基本的には世界に対して「安定と秩序」を求めることは共通しています。
努力をした人は報われ、悪人には罰が下り、正しい行いをしている人には悪いことはおこらない、と考えたい。人が、世界はそうなっていると考えながら生きているということを、「公正世界仮説」と呼びます。

しかし、実際の世界は清く正しい生き方をしている人に、絶対に悪いことが起きないということはありません。
タバコを吸いまくっていても90歳過ぎてがんにならない人もいれば、摂生した生活をしているのに若くしてがんになって亡くなってしまう人もいます。
世の中はそういう理不尽や不条理なことが起きることが常なのです。
しかしそういう事態が起きた時に、「公正世界仮説」にとらわれる人たちは、その信念を守るために
「摂生した生活をしているように見えて、実は体に悪いものも食べていたんじゃないか」
「前世の報いじゃないか」
「ほんとうは正しい治療法というのがあるのに、それを受けなかったからだ」
と、不幸な目にあった人に何か悪い因果があったに違いない、と考えてしまいます。

これは他の時にもよく起きることで、例えばレイプ被害を受けた女性に対し「隙があった」「男を誘うような服装だった」と責め、いじめの被害者にも「いじめられる方にも落ち度がある」「弱いということが悪い」などと責める人が出てきます。
どう考えても加害者の方が悪いに決まっています。
しかし、世界は公正であり、正しい人には正しいことしか起こらない、と信じたい人たちにとっては、悪いことが起きた人にはわかりやすい落ち度が見つけられないと、自分が信じている世界が「正しくない」ということを認めないとならなくなるので、被害者側を責める心理が生まれるのです。

その目で、世界をみてみてください。
オンライン・オフラインかかわらず、世界中でそれぞれの公正世界の戦いが繰り広げられています。
みんな、自分が見ている世界が「正しい」と思いたい。
でも、世界は時に理不尽であるし、運命は思いもよらない方向に人を押しやります。
少なくとも、その理不尽に巻き込まれた人に対し、自分の公正世界を守るために、呪いの言葉を浴びせるということは避けていきたいものです。

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